回顧録1 インフルエンザ脳症との遭遇

前回の続きで僕が診察したインフルエンザ脳症の1歳の子の話をします。今から12,3年前、研修を終了した僕は一般総合病院の小児科へ大学病院から派遣されました。勤務中、外来診察中にけいれんした子がその子でした。母親にとって初めての子でしたし、けいれんをとめるための注射薬の影響か今ひとつ意識状態がはっきりせず、母親付き添いのもと入院していただき経過をみました。頭部CT検査、血液検査、髄液検査まで行い、全て異常はありませんでした。当時はインフルエンザの迅速診断キットが出始めた頃で入院時の病名はインフルエンザA型、熱性けいれんでした。入院翌日意識状態も戻り、しかしぐったりしていたことは記憶しています。そして入院3日目、たまたま僕が当直の日でしたが、夕方当直に入る時間に病棟でその子は2回目のけいれんをしました。その時も血液検査、髄液検査、頭部CTも再検査したのですが全然異常ありませんでした。しかしその夜はその子の胸には喘鳴があり、ちょうど中国映画のキョンシーのように腕を上げ下げするような異常行動をしていました。翌日の頭部CT、血液検査は全く違っており、頭部CTには明らかな脳浮腫が映っており、血液検査の肝機能を表す数字は一晩で2,3万台まで上昇してました。すぐに大学病院に搬送し血漿交換療法を行ってもらいました。搬送する救急車の中で僕も頭が混乱していました。その子のお母さんが「うちの子は大丈夫ですか?」と聞かれても何も言えなかった事を覚えています。幸いその子は命は取り留めましたが、片側足に麻痺が残りました。
数年後、日本生化学会という学会ですばらしい発表をみました。(今年は京大の山中伸弥先生がノーベル医学生理学賞を受賞しましたが、この年は田中耕一先生が化学賞を受賞され、日本生化学会で記念講演されていたの覚えています。)徳島大学の木戸博先生の所に留学されていたインドネシアの方の発表だったと思うのですが、カルニチントランスポーターという受容体を遺伝子操作で機能させなくしたねずみにインフルエンザウイルスを鼻から感染させると脳浮腫が起こるという発表です。
ちょっと長くなったし専門用語も多くなりわかりにくいので続きはまた今度にします。次回は自分なりのインフルエンザの解釈を書こうと思います。(2012 10/12)